(Jo^▽^)ノぁぃ♪
本稿は『オーディオに関する私の考え』シリーズの第7回
今回は、MM専用 イコライザアンプの新しい構成を述べる。
「この投稿について知っておいてほしい基本ルールや前提」
私は電子回路設計・開発のスペシャリスト、いわゆるサーキットマスターとして、オーディオを感覚論や評論ではなく、電子工学および制御理論の立場から体系的に捉えている。
専門領域はマイコン制御、アナログ回路、パワーエレクトロニクスであり、設計者としての原点はアナログ回路にある。
その延長として、オーディオにも長年深く関わってきた。
本シリーズでは、現代のデバイス特性と回路技術を前提に、オーディオシステムの「あるべき姿」を 工学的観点から再定義する ことを目的とする。
なお本稿では「音の良し悪し」については論じない。
音の評価は個人の主観に依存し、他者と完全に共有可能な客観的尺度を持たないためである。
「本シリーズで扱うオーディオ回路設計の基本思想は、次の4点に集約される。」
1)必要最小限のパーツで仕様を満たすこと(余計なものは要らない) 優れた回路とは、不要な自由度を排除し、基本法則に立ち返り、
最小の構成で最大の効果を引き出す ものである。
2)外界および部品の影響を極力排除すること(構成部品の影響を排除)
環境変動や部品ばらつきに依存しない構造こそが、再現性の高い設計 を可能にする。
3)伝送路や負荷条件の影響を低減するため、可能な限り電流伝送を採用すること
(低インピーダンス化によりノイズおよび伝送路依存性を低減する)
電流伝送はノイズに強く、伝送路や負荷条件の影響を受けにくい。
したがって、安定した動作と高い再現性 を得るための基本原理となる。
4)可聴帯域内に極が存在する場合、位相回転そのものよりも、群遅延の急峻な変動や周波数依存性の非線形性を抑えることを重視する。
周波数特性の平坦さは重要である。しかし、それだけでは時間軸の整合性や空間的再現性は保証されない。
今回も、これら 4つの基本原則 に沿って構成する。
全く新しい回路の完成形をそのまま AI に評価させるのではなく、機能ごとにブロックへ分割し、それぞれについて
何を実現したいのか(意図)
どのような条件で成立するのか(前提)
どのように振る舞うと考えるのか(仮説)
を明示することが重要である。
複雑なシステムを機能ごとに分解して考えることは、人間の設計者にとっても有効な手法である。
このように構造化することで、AI は各ブロックを 既知の回路モデルとして解釈しやすくなり、局所的な検証と全体統合の両方が可能になる。
その結果、一般論に留まらず、設計意図に沿った具体的かつ踏み込んだ検討へと発展させることができる。
以上の考え方を踏まえ、本稿では MM カートリッジとイコライザアンプを一つのシステムとして捉え、従来とは異なる構成を提案する。
「本稿の結論」
MM専用 イコライザアンプは、上の基本思想で述べた 1)必要最小限のパーツで仕様を満たすこと を実現すべく設計。
MM専用とは言っても、ヘッドアンプ+イコライザではなく、オーディオに関する私の考え その4で述べた「仮想接地による電流伝送、 VCT回路(Virtual Current Transmission)」をベースに設計。
https://elchika.com/article/df101d9f-11f5-40f5-ba9a-e4221987b1b7/
「回路構成のコンセプト」
1)低ノイズ 「ノイズを発生させない」
2)電流伝送 「ノイズを受けない」
3)インピーダンス整合 「負荷の最適化」
4)目標ゲインは設定するが、部品は コンデンサ=E3系 抵抗器=E6系から選択するので、RIAA時定数最優先のパーツ選択と成る。
まず、MMカートリッジの電気的性質と、それを扱うためのヘッドアンプ(VCT)の基本構造を確認する。
「MMカートリッジというデバイスの本質的な問題点」
MMカートリッジは、構造上どうしても 高インピーダンス・高インダクタンス という宿命を持つ。
その結果として、
ケーブル容量との LC共振
負荷抵抗による 一次遅れ系の形成
帯域内に存在する 高Qの極
それに伴う 群遅延の乱れ
といった、制御理論的に見れば「扱いづらい特性」を抱えている。
従来のMMイコライザは、“この問題を受け入れた上で補正する” という発想で作られてきた。
しかし本稿で扱うのは、そのような補正を後段で行うのではなく、「そもそも問題を発生させにくい構造を作る」という、まったく逆のアプローチである。
すなわち、MMカートリッジが本質的に抱える減衰二次系としての振る舞いを見直し、より扱いやすい系へと変換した上でイコライザ処理を行うことを目指す。
「基本と成る MMヘッドアンプ」
「オーディオに関する私の考え その4」で設計した仮想接地による電流伝送、VCT回路を利用する。
https://elchika.com/article/df101d9f-11f5-40f5-ba9a-e4221987b1b7/
カートリッジのダンピング抵抗 100kΩ
「使用するJFET」
LSK170B (IDSS = 6.0~12mA)
https://www.linearsystems.com/_files/ugd/7e8069_a086ff7323054b5da3b91e364c90b3d4.pdf
JFETの動作点 Rs=2.2kΩによる局部帰還では
1)IDSS 6mA では ID 0.35mA
2)IDSS 12mA では ID 0.56mA
gmRs:最低5以上 この条件なら、理論上かなり線形なトランスコンダクタになります。
LSK170Bは電圧ノイズが極めて低く(1nV/√Hz以下)、本回路のノイズ予算に適合するため採用した
JFETは同一ランクでも IDSS のばらつきが大きい素子であるが、本回路ではソース帰還抵抗(2.2kΩ)による強いローカル負帰還を与えることで動作点を自己安定化させている。
この帰還効果によりトランスコンダクタンスの個体差は大幅に緩和され、最終的な出力変動幅は約0.6 dB程度に収まり、ステレオ再生において実用上十分な一致度を得ている。
なお上記は VP 1.0~1.6V 程度を想定した計算であり、個体差によって動作点は変動する(ただしソース帰還が抑圧する)
「FETを選別しては」との意見も有るだろうが、基本思想 2)外界および部品の影響を極力排除すること (構成部品の影響を排除) に反する。
優れた回路とは、部品の選別によって成立するものではなく、部品ばらつきを許容できる構造そのものによって成立するべきだと考える。
「使用するOPアンプ」
LT1115CN8#PBF 試作に便利なDIPパッケージ
https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/lt1115fa.pdf
https://www.digikey.jp/ja/products/detail/analog-devices-inc/LT1115CN8-PBF/889151
優先課題のノイズ 0.9nV/√Hz
入力バイアス電流 10nA
入力オフセット 最大100μV
電源電圧:±2V~±20V
8ピンDIP
\1,649
MMカートリッジは高インピーダンス源として扱われることが多いが、本構成ではJFETによるV/I変換を経て電流伝送を行うため、受信側I/V変換回路から見た信号源インピーダンスは低い。
そのため、電流雑音よりも電圧雑音の低さを優先して素子を選定できる。
LT1115は、この条件において極めて有利な特性を持ち、本回路の目的に適したオペアンプである。
「カートリッジから仮想接地I/V変換までの回路動作」
「初段」
1)MMカートリッジは100kΩでダンピングされる。
2)JFETとソース抵抗による局部帰還でトランスコンダクタを構成し、電圧信号を電流として伝送する。
3)ドレイン電圧はI/V変換回路のリファレンス電圧2.5Vに固定される。
4)既存のシールドケーブル(1芯)で信号伝送と電源供給(定電圧駆動)を兼ねている。
5)I/V変換のリファレンス電圧は2.5Vとする、この2.5Vは本回路の基準電圧で安定化電源が要求される、この電圧の変動はそのままヘッドアンプ出力に現れる。
JFETのドレイン電流(0.35mA~0.56mA)がI/V変換の帰還抵抗 2.2kΩに流れる。
したがってOPアンプ出力の直流動作点は、約3.27V~3.73V(JFET個体差による)
MMカートリッジ出力を5mVとすると、JFETトランスコンダクタ(0.417)により信号電流は約2.08μAとなるため、I/V変換後の信号振幅は4.58mVとなる。
よってOPアンプ出力は3.5V±4.58mV付近で動作する。
「2段目」
・上記のMMヘッドアンプをイコライザアンプ初段として構成する。
・JFETのドレイン電流(0.35mA~0.56mA)がI/V変換の帰還抵抗 7.5kΩに流れる、したがってOPアンプ出力の直流動作点は、約5.125V~6.7V(JFET個体差による)
・前回発表したMC専用イコライザアンプと同じく、RIAAカーブの高域側を受け持つ fcは2122Hz
・この帯域制限により、次段のオーバーロードを防ぎ、20kHz帯域ノイズを大幅に抑えられる
・帰還抵抗7.5kΩと10nFによる時定数は75μs(2122Hz)
・MMカートリッジの出力電圧が5mV(1kHz)の場合、初段I/V変換後の信号振幅は15.6mVとなる。
・FETによるトランスコンダクタで位相反転、I/V変換回路は反転増幅なので、最終的な初段の位相は「正相」と成る
2段目まではDCカットを行わない。
これは、ノイズ、インピーダンス、そして群遅延を最適化するためには、不要な極を追加しないことが重要だからである。
カップリングコンデンサは便利な部品である一方、新たな時定数を生み出し、位相回転と群遅延の変化を避けることはできない。
したがって本構成では、低インピーダンスで動作するVCTおよびRIAA初段にはDC結合を採用し、DCの処理は後段の高インピーダンスノードで行う。
これはノイズ的にも構造的にも合理的な方法である。
シミュレーション結果も良い数値が出ている
「3段目」
3段目は、2段目からの出力をAC結合し、RIAAカーブの低域ブーストを受け持つ。
2段目からの入力電圧は、直流動作点が約5.125V~6.7V、信号振幅は約15.6mVである。
入力は1μFと100kΩによるAC結合とし、fcは約1.59Hzとなる。この極は可聴帯域より十分低いため、RIAA補正帯域への影響は小さい。
低域ブーストは非反転増幅回路で構成し、RIAAの500Hzおよび50Hz側の補正を受け持つ。MMカートリッジ出力を5mV、2段目出力を15.6mVとした場合、3段目出力は1kHzで約156mVとなる。
イコライザアンプ出力の1kΩダンピング抵抗は必須である。OPアンプの出力を直接「基板外」へ出してはいけない。外部から混入する高周波ノイズは、OPアンプ出力段だけでは抑えきれず、帰還経路を通じて反転入力へ到達する場合がある。条件によっては不安定化し、発振を誘発することさえある。
このダンピング抵抗には、出力インピーダンスの上昇と次段への信号レベル低下という副作用がある。しかし本回路は測定器ではなくオーディオ回路であり、信号レベルは後段のプリアンプで調整できる。
さらに、今後発表するプリアンプの入力もVCT(仮想接地)で受ける予定である。その場合、この1kΩ抵抗はそのまま電流伝送の送り出し抵抗として機能するため、単なる損失要素ではなく、シリーズ全体の電流伝送を維持するための構成要素となる。
ここで、AI解析などでよく誤解される点があるため、100kΩの熱雑音について補足しておく。
3段目を単体で見ると、入力の100kΩ抵抗は熱雑音源として評価される。しかし実際の回路では、この100kΩの上端は1μFを介して前段出力に接続されている。
fcは約1.59Hzであり、可聴帯域では前段出力は低インピーダンス源として振る舞う。そのため、100kΩ抵抗の熱雑音は前段出力インピーダンスおよび1μFによって強くシャントされ、OPアンプ+入力に現れる成分は大幅に抑えられる。
したがって、この100kΩを単独の入力抵抗として扱い、その熱雑音がそのまま入力へ加算されると評価するのは、回路構造を無視した過大評価である。
シミュレーション結果も良好である。
「全体の構成」
第1段 ヘッドシェル内 JFETトランスコンダクタ
LSK170B IDSS 10mA
Rs=2.2kΩ、gm5mS とすると
gm/(1+gmRs) ≒ 0.417 mA/V
第2段 I/V変換(低Rf・広帯域・強帰還)
初段のトランスコンダクタンス(0.417mA/V)により、MMカートリッジ出力 5mV → 信号電流 2.08μA が得られる。
この電流を I/V変換抵抗 Rf = 7.5kΩ に流すことで、第2段の出力振幅は 15.6mV とみなせる。
第2段は gm に依存せず、初段の電流をそのまま電圧に変換する段 であるため、等価ゲインは 1.0(電流→電圧変換) となる。
RIAA 高域側の時定数は、7.5kΩ × 10nF = 75μs(2122Hz)。
第3段 第3段 AC結合 → 低域RIAA補正・電圧増幅
AC結合 1μFと100kΩによるfcは1.59Hz
起動時の過渡応答(ポップノイズ)は以前提案した「オーディオに関する私の考え その2」の電源でソフトスタートが実施されている
| 項目 | 従来型MMイコライザ | 本方式(VCTベース) |
|---|---|---|
| 入力条件 | 47kΩ+容量負荷 | 100kΩ軽ダンピング |
| ケーブル容量の影響 | 大(LC共振の要因) | 小(VCTにより大幅低減) |
| 高域ノイズ帯域 | 約20kHz | 約2122Hz(初段で制限) |
| S/N | 70~75dB程度 | 約84dB(本設計値) |
| 群遅延の乱れ | 高Q二次系に依存 | 一次系化により抑制 |
| 設計思想 | 問題を補正する | 問題を発生させにくい構造 |
「全回路図」
ここまで述べてきた各ブロックを統合したものが、画像に示す全回路図である。
本稿で示した定数(CR)は、各時定数および回路動作を優先して算出した理論値を基準としている。
実際の部品選定にあたっては、
コンデンサ:E3系列
抵抗器:E6系列
を基本とし、必要に応じて抵抗器の直列・並列接続によって値を合わせ込んでいる。
これは「高精度部品ありき」の設計ではなく、一般に入手可能な標準部品によって所望の特性を実現することを目的としているためである。
また、本稿の回路は「特殊な選別部品によって成立する回路」ではない。素子ばらつきを許容しながら、構造そのもので性能を確保することを重視している。
すなわち本方式は、MMカートリッジが本質的に抱える問題を後段で補正するのではなく、
『問題を発生させにくい構造へ変換した上で、必要最小限の要素によってRIAA特性を実現する』
ことを目的としたMM専用イコライザアンプの提案である。
「電源回路」
±9Vの電源は、以前投稿の「オーディオに関する私の考え その2」で設計した、CAAP 「Control-Theoretic Approach to Audio Power」 (制御理論に基づくオーディオ電源)をベースに構成
https://elchika.com/article/8cef745d-7d88-471e-a937-c36a90bdc7ec/
・初段のI/V変換は“2.5Vを基準とした電流→電圧変換”であり、この基準電圧の揺れはそのまま信号に重畳される。
・したがって、リファレンス電圧のノイズ=イコライザのノイズフロア という構造になっている。
ここのノイズが全て出力に乗るので厳重なノイズ対策をしている。
AC入力→トランス→整流→LRCによる電源フィルタ→9Vのシリーズレギュレータ→更にシャントレギュレータ→CRフィルタ→2.5Vリファレンス
電解コンデンサの耐電圧は、必要以上に高いものを選べば良いとは限らない。
一般に、同一シリーズ・同容量で比較した場合、高耐圧品は内部構造の違いによりESR(等価直列抵抗)が増加する傾向がある。また大型化による寄生成分の増加も無視できない。
したがって本稿では、十分な電圧マージンを確保しつつ、過度に高い耐電圧品は避ける方針とした。
なお、実際のESR特性はコンデンサのシリーズや用途によって異なるため、最終的にはデータシートによる確認が望ましい。
「全体のノイズ計算」
本節では、本MMイコライザアンプの ノイズ特性を段ごとに分解し、最終的なS/Nを見積もる。
ポイントは以下の2点である。
初段・2段目で 帯域とノイズを強く制御している こと
3段目は 低域ブーストを行うが、ノイズ的には支配的にならない 構成であること
「初段・2段目(VCT+I/V変換)のノイズ」
初段・2段目は、MMカートリッジを100kΩでダンピングし、JFETトランスコンダクタ+仮想接地I/V変換(7.5kΩ+10nF)で電圧信号を電流抽出・電圧変換する段である。
I/V抵抗:7.5kΩ
高域ロールオフ:7.5kΩ+10nF → 75μs(2122Hz)
このとき、初段のノイズ帯域は 20kHzではなく 2122Hz で制限される。
一次ローパスの実効ノイズ帯域はおよそ:Beff≒π/2fc≒1.57×2122≒3.3 kHz
支配的なノイズ源は I/V抵抗 7.5kΩ の熱雑音である。
抵抗のノイズ密度 en,R≒√4kTR≒11.1 nV/√Hz
帯域積分後のノイズ電圧 Vn,1st≒11.1 nV/√Hz×3300≒0.64 μV (rms)
JFET(LSK170B)およびOPアンプ(LT1115)の電圧ノイズはともに 1nV/√Hz クラスであり、
I/V抵抗ノイズに比べて十分小さいため、ここでは二次的とみなせる。
MMカートリッジ出力 5mV(1kHz)に対して、2段目出力は15.6mV であるから、S/Nst ≒ 20 log (15.6mV / 0.64μV) ≒ 88 dB
初段・2段目だけで約88dBのS/Nが得られる。
「3段目(低域ブースト)のノイズ」
3段目は、2段目出力を1μF+100kΩでAC結合し、非反転増幅回路で 500Hz/50Hz のRIAA低域ブースト を与える段である。
500Hz時定数:1.45kΩ × 0.22μF ≒ 318μs
50Hz時定数:14.5kΩ × 0.22μF ≒ 3180μs
1kHzでの電圧ゲイン:約10倍(15.6mV → 156mV)
ここで重要なのは、非反転入力の100kΩ(AC結合のバイアス抵抗)のノイズの扱いである。
この100kΩは、一端がGND 他端が「初段出力により低インピーダンスで駆動されるノード」
に接続されており、そのノイズは 電流ノイズとしてノードに注入されるが、ほとんどが低インピーダンス側(初段出力)に流れ込む。
したがって、100kΩを「40nV/√Hzの電圧ノイズ源」としてそのまま+入力に乗るとみなすのは過大評価であり、実際にはその寄与はかなり小さい。
3段目で支配的になるのは、フィードバック側の抵抗群(14.5kΩ/1.45kΩ/220Ω)の熱雑音
OPアンプ LT1115 自身の電圧ノイズ(0.9nV/√Hz) であり、これらを総合した 3段目自身の出力ノイズは「数μV~十数μV」オーダー に収まる。
一方、初段・2段目ノイズ 0.64μV は、3段目で約10倍されて 最終出力で約 6.4μV となる。
「総合ノイズと総合S/N」
3段目自身の出力ノイズを、保守的に約8μV rms程度と見積もる。
初段・2段目由来ノイズは、3段目で約10倍されるため、 Vn,1st→out ≒ 6.4μV rms となる。
一方、3段目自身の出力ノイズを、 Vn,3rd ≒ 8μV rms
とすると、総合ノイズは二乗和平方根で、
総合ノイズは二乗和平方根で Vn,total ≒ √(6.4^2 + 8^2)) μV ≒ 10 μV (rms)
最終出力信号(1kHz)は 156mV であるから、S/Ntotal ≒ 20 log10(156mV / 10.2μV) S/Ntotal ≒ 83.7dBとなる。
よって、本MMイコライザアンプの総合S/Nは、概ね84dBと見積もることができる。
「ノイズ設計としてのまとめ」
本方式では、初段・2段目で帯域を2122Hzに制限し、ノイズを強く抑え込んでいる。
そのため、3段目でRIAA低域ブーストを行っても、総合S/Nは80dB台前半を維持できる。
従来のMMイコライザのように、高インピーダンスのまま20kHz帯域でノイズを積分する構造とは異なり、本方式では、構造的にノイズ帯域を制御した上でイコライゼーションを行っている。
この点が、S/Nの面でも大きく効いている。
「従来MMイコライザとのノイズ比較」
ここでは、本稿のMMイコライザと、一般的な「従来型MMイコライザ」のノイズ構造を比較する。
単にS/Nの数字を比べるのではなく、どこでノイズが決まり、なぜ差がつくのか を整理する。
「従来MMイコライザのノイズ構造」
一般的なMMイコライザは、
・MMカートリッジを47kΩとケーブル容量で受ける
・高インピーダンスのまま電圧増幅段へ入力する
・RIAA高域側(75μs)は後段のCRネットワークで実現する
・帯域は基本的に20kHzまでフラット
という構成になっている。
このときノイズは主に、
・47kΩ負荷抵抗の熱雑音
・初段増幅素子(OPアンプやトランジスタ)の電圧雑音
によって決まり、それらは20kHz帯域まで積分される。
さらに、MMカートリッジ自身が高インピーダンス・高インダクタンスであるため、
・ケーブル容量とのLC共振
・負荷抵抗を含む減衰二次系の形成
・帯域上端付近に現れる高Qの極
それに伴う群遅延の乱れといった、「扱いづらい特性」を抱えたまま増幅される構造になっている。
その結果、一般的なMMイコライザでは、47kΩ負荷抵抗の熱雑音、20kHz帯域で積分される初段ノイズ、および実装条件を含めると、現実的なS/Nは70~75dB程度に落ち着くことが多い。
一方、本方式では75μs(2122Hz)の時点で帯域制限を行い、ノイズ帯域そのものを構造的に縮小している。
すなわち、「同じノイズ源をより上手く扱う」のではなく、「そもそも積分されるノイズを減らす」という発想である。
「本MMイコライザのノイズ構造」
本稿のMMイコライザは、従来方式とはノイズの決まり方そのものが異なる。
MMカートリッジは100kΩでダンピングし、JFETトランスコンダクタで電流抽出する。
→ カートリッジの高インピーダンス・高インダクタンス性の影響を構造的に低減し、扱いやすい系へ変換する。
電流伝送(VCT)により、V/I変換以降はケーブル容量の影響をほとんど受けない。
仮想接地I/V変換で、7.5kΩ+10nF(75μs、2122Hz)の高域ロールオフを初段で先に与える。
→ 初段のノイズ帯域は2122Hzで制限される。
3段目は、低インピーダンスで受けた信号に対して、500Hz/50HzのRIAA低域補正のみを行う。
この結果、
初段・2段目で S/N ≒ 88dB(75μs、fc=2122Hz)
3段目を含めた総合でも S/N ≒ 84dB(20kHz帯域)
という、従来のMMイコライザより約10dB有利なノイズ性能が得られる。
「なぜ10dB違うのか」
従来方式は、「高インピーダンスのまま20kHzまでノイズを積分し、その後でRIAAカーブを与える」という構造である。
一方、本方式は、「まず低インピーダンスで電流抽出し、初段と2段目で帯域とノイズを構造的に絞り込んだ上で、低域側のみを後段で補正する」という構造になっている。
つまり、
ノイズ源の実効インピーダンスが低い
ノイズを積分する帯域が狭い
イコライゼーションとノイズ制御が一体設計されている
という3点の違いがある。
その結果、同じ「MMカートリッジ+RIAA」という問題を扱いながらも、ノイズ構造そのものが別物になっている、というのが本稿の結論である。
「まとめ」
MMカートリッジの弱点である、高インピーダンス・ケーブル容量依存性・広帯域ノイズを、構造そのものから見直したMM専用イコライザアンプを提案した。
● 初段・2段目:MMの弱点を構造的に低減
100kΩでMMカートリッジをダンピング
JFETトランスコンダクタによる電流抽出
VCT(仮想接地による電流伝送)
I/V変換で75μs(2122Hz)の高域ロールオフを先に付与
→ MMカートリッジの高インピーダンス・高インダクタンス性の影響を低減し、初段だけで S/N ≒ 88dB を実現した。
● 3段目:RIAA低域補正専用
AC結合によってDCのみを切り離す
500Hz/50HzのRIAA低域補正を実施
非反転入力100kΩの熱雑音は、前段の低インピーダンスによって大きく抑制される
→ 3段目自身のノイズは数μVレベルに留まる。
● 総合S/N
初段・2段目由来ノイズ(0.64μV)は、3段目で約10倍されて 6.4μV
3段目自身のノイズと二乗和平方根で合成すると、総合ノイズは約10μV rms
最終出力156mV(1kHz)より、
→ 総合 S/N ≒ 84dB を得ることができた。
● 電源も“構造的ノイズ最適化”
CAAP電源(LRC → 9Vレギュレータ → シャントレギュレータ → CRフィルタ → 2.5V基準)
2.5Vリファレンスのノイズは、そのままイコライザのノイズフロアとなる
→ リファレンス電圧を含めた徹底的なノイズ対策を行った。
本稿で提案したMMイコライザは、従来のように「問題を受け入れて補正する」のではなく、問題を発生させにくい構造へ変換した上でイコライゼーションを行うことを目指したものである。
同じ「MMカートリッジ+RIAA」を扱いながらも、伝送方式、ノイズ帯域、群遅延、電源までを一体のシステムとして再構成することで、従来とは異なるアプローチの可能性を示した。
本シリーズは、現代のデバイスおよび回路技術を前提に、オーディオシステムの「あるべき姿」を再定義する試みである。本稿が、その一つの提案として読者諸氏の検討材料になれば幸いである。
「最後に」
高価なパーツに頼るのではなく、構造そのものによって外乱の影響を封じ込め、デバイスの弱点を「補正」ではなく「構造的に低減する」。
本シリーズで示した回路は、すべてこの思想に基づいて設計している。
既存回路のコピーでは到達できない、ノイズ源の位置と帯域を理論的に制御する設計。
MM/MCカートリッジの物理特性を最大限に活かし、高Qの極による群遅延の急峻な変化を抑え、再現性と安定性を最優先にした、要求仕様から再構成する“ゼロベース設計”である。
そして、私の回路設計は常に量産を前提としている。
1台だけ動けば良いのではなく、1万台作ってもすべてが同じ性能で動き続け、仕様書に定めた寿命(一般に10年)を故障なく満たすこと。
この2つを満たす構造でなければ、設計として成立したとは言えない。
本シリーズは、その基準に基づき、物理・制御理論・電子工学の原則に従って、最小構成で最大の再現性を得るための設計手法を示したものである。
もし分かりにくい点があれば、記事の一部をコピーしてAIに投げてみてほしい。
私の意図を、別の角度からより分かりやすく説明してくれるはずである。
本稿で示した条件では、MM方式で総合S/N ≒ 84dBを達成した。
これは、従来型MMイコライザの一般的な70~75dBという水準に対し、構造そのものを見直すことで到達した結果である。
本シリーズが、オーディオ回路を「部品の個性」ではなく、「構造と原理」から再考する一つのきっかけになれば幸いである。
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