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JO 2026年07月01日作成 (2026年07月02日更新)
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修理してみた その11

修理してみた その11

(Jo^▽^)ノぁぃ♪

設計者が市販製品を解析してみた

本シリーズは、単なる修理記録ではありません。
電子回路設計者の視点から、市販製品の動作を測定・解析し、設計思想や故障モードを考察する技術記事です。

「電子レンジ不調」

最近、我が家の電子レンジが不調だ、パナソニック NE-FL 100-W
発売は2020年11月1日なので約5年以上前だ

「不調の内容」

調理時は、レシピ通りの調理時間でも十分な加熱が出来ない
レンジ出力600W表示だが、500Wのレシピでも加熱不足になる
分解するにも内部は高電圧なので、外部から出来る事から始める

「JIS規格」

そこで調べてみるとJIS規格では測定方法が決まっているようだ
JIS C 9250 の 500mL×2 ビーカー方式に基づく
500mL×2 の水(攪拌)を 60 秒加熱(攪拌) → 平均温度上昇 ΔT を測定 → 出力(W) = ΔT × 70 という計算式が使われる。
水量:500mL × 2 個(合計 1L)  
加熱時間:60 秒(+予熱 2 秒)
計算式:出力(W)=ΔT×70

「実際に計測」

我が家には「ビーカー」がないが、温度上昇がさほどないようなので、プラスチックのタッパーでも良いだろう、耐熱の丼などでは容器に熱が奪われてしまうからだ
キッチンの量りで正確に(500ml)計測、温度は放射温度計で計測 両方共16.2℃

500ml 計測

「加熱」

2個のタッパーを62秒加熱して攪拌する、加熱にバラつきが出るからだろう
温度計測 23.2℃ と 22.8℃ = 平均 23℃ - 16.2℃ 6.8(ΔT) × 70 = 476W
やはり出力低下している

「入力電力とPFC動作の確認」

「入力電力を計測」

では電子レンジの入力電力は正常か確認する

仕様書

「入力計測」

標準では銘板 1360W(有効電力)の様だ、実際に計測する
ACの入力電圧はAC105V 1Lの水を手動設定600Wで加熱中の回路電流は10.28A = 1079W

電流計測

この電力は皮相電力だ、内部電源がPFC(力率改善整流回路)かどうかで判断が変わる
・PFC回路なら力率は限りなく1に近いから実効電力1079W
・PFCでなければ皮相電力1079VA  銘板 1360W(有効電力)と そのまま一対一で比較はできない
一方で、JIS相当の水加熱テストで 約476W しか出ていない → 実効出力が落ちている事実 は揺らがない

「消費電流計測」

付属の「内部配線図」からはPFCか否かの判断が出来ない

内部回路

PFC回路かどうかは、AC電源回路電流の波形観測で確認出来る
PFC回路であれば、電源の電圧に同期した電流波形となるが、整流→平滑 では高調波(ウサギの耳)が観測出来る
ところが頼みのオシロに接続する電流プローブは故障中です

電流プローブ

シャント抵抗を使用する、と言ってもタップケーブルに低抵抗を接続するのは面倒な事だ
そこで「裏技炸裂」 タップケーブルで電子レンジを接続して、ケーブル両端の同じ電極を観測する、電流は10.28Aなので電圧降下も観測出来るだろう
テスターで測定するとAC0.14Vが観測出来る、これだけ出てればオシロで表示出来そうだ、ケーブルの抵抗値は不明だが、値を見るわけで無く波形を見るので波形振幅は気にしない

「電流波形」

ゼロクロス辺りが怪しいがPFCとして動作している様だ

電流波形

従って力率は限りなく1に近いから実効電力1079Wが確定した
ここまでの外部計測結果を整理すると、次のような状態になっている。
・定格出力:600W 自動で加熱すると初めは900Wで加熱らしいので「手動で600W設定」
・JIS相当の水加熱テスト:476W(約80%)
・銘板消費電力:1360W(有効電力)
・実測消費電力:1079W(PFC動作確認済 → ほぼ有効電力) (約79%)

つまり、入力側も出力側も「2割低下」しており、「入力だけ弱い」「マグネトロンだけ弱い」という単純な故障ではなく、電源~インバータ~マグネトロンまで“系全体”がデレーティングされた状態 と考えられる。

「PFC動作の確認」

内部配線図からは PFC の有無が判断できなかったため、ACラインの電流波形を観測して確認した。
電流プローブが故障中のため、タップケーブルの電圧降下を利用して波形を観測する“裏技”を使用した。
・テスターでケーブル両端の電圧降下:AC 0.14V
・オシロで観測した電流波形:電圧波形とほぼ同相の正弦波
 → PFC が正常に動作している 従って、1079W は皮相電力ではなく 実効電力(有効電力) と判断できる。

「外部計測から見える損失要因の推定」

「どこで損失が発生しているのか?」

PFC が正常である以上、一次側の整流・平滑までは大きな問題はない。
しかし、PFC 付き電源には特徴がある。
・一次側平滑コンデンサが容量抜けしても → PFC が電流制御で“隠してしまう”
・リップルが増えにくく、波形も正常に見える
・しかし重負荷時には PFC が補正しきれず、
 → バス電圧がわずかに低下し、全体の出力が落ちる

「では、どこでロスが発生しているのか?」

今回の「入力も出力も2割低下」という症状は、まさに 一次平滑コンデンサの容量抜け で説明できる典型パターンである。

もちろん、他にも候補はある。
・高圧コンデンサの容量抜け
・高圧ダイオードのリーク
・マグネトロンのエミッション低下
・インバータ素子の損失増大や保護動作
しかし、「軽負荷では正常、重負荷でだけ落ちる」
という挙動が確認できれば、一次側の容量抜けが最有力になる。

「まだ外部で出来ること」

このレンジは 600W / 500W / 150W の切り替えがある。
もし 150W モードで JIS 相当の水加熱テストを行い、150W がほぼ規定どおり出るなら、
→ 重負荷時だけ PFC が踏ん張り切れない
→ 一次平滑コンデンサの容量抜けが濃厚
逆に、150W でも 80% 程度しか出ないなら、
→ 高圧系やマグネトロンの“絶対性能低下”が本命
この追加テストは、分解前にできる最後の切り分けとして有効である。

「150Wテストによる故障モードの切り分け」

「150Wでテスト」

JIS のテストは 600W で 1L なので、150W なら水量は 1/4 の 250mL で良い。
1000ml→250ml にする理由は、1000mlでは温度上昇が少ない=放射温度計の「分解能」から誤差が増える
S/N比で考えるなら、ノイズフロアに近づくと誤差が増えるのでS=信号を大きくして計測とする
同じくタッパーに 250mL を入れ、初期温度を測定してから 150W モードで加熱する。

250ml 計測

「計測結果」

温度計測
 テスト前:17.4℃
 テスト後:24.0℃
温度上昇 ΔT = 24.0℃ - 17.4℃ = 6.6℃
JIS式に従い、出力(W) = ΔT × 70 = 6.6 × 70 = 462W
ただし水量は 1/4 なので、実質出力は115.5W

「150W設定に対して 115.5W(約77%)」

600W テストでは 476W(約80%)だったが、
150W テストでも約77%と、ほぼ同じ比率で低下している。

つまり、
・重負荷(600W)だけが落ちているのではない
・軽負荷(150W)でも同じ比率で低下している
・PFC や一次側の「重負荷時だけ踏ん張れない」故障ではない
・系全体が一定比率でデレーティングされている
という結果になった。

この挙動は、
・マグネトロンのエミッション低下
・高圧コンデンサの容量抜け
・高圧ダイオードのリーク
・インバータの高圧生成能力低下
といった高圧~マグネトロン側の“絶対性能低下”が本命であることを示している。

600W でも 150W でも約80% に揃って落ちている為、「一次側の容量抜けで重負荷だけ落ちる」パターンとは異なる。
結論として、このレンジは 高圧系またはマグネトロンの劣化による“全域デレート”状態に入っていると判断できる。

「修理方針の検討」

「どこまで修理するのか?」

ここまでの外部計測だけで、
・表示600Wに対して実効は約480W
・150Wでも約115Wと、全域で約8割スケール
・PFCは動作しており、一次側の致命傷ではなさそう
・高圧系またはマグネトロンの劣化が本命、というところまでは追い込めた。

ただし、ここから先は「どこまで踏み込むか」の世界になる。
・マグネトロンの交換は、高電圧・マイクロ波・シールド構造の問題もあり、個人で安全に行うのはかなりハードルが高い
・一方で、高圧コンデンサ(いわゆる平滑コンデンサ)の容量抜けであれば、部品入手と交換自体はまだ現実的なラインにある

現実的に個人で手を出せるのは、せいぜい高圧コンデンサの交換までだろう。
そこまでやっても改善しなければ、「マグネトロン本体の寿命」と割り切って、このレンジは“実験教材としての役目を終えた”と判断するのが妥当かもしれない。
エンジニアとしては、ここまで外から詰めて、「どのブロックが怪しいか」を言語化できただけでも十分勉強した。

80%の出力でも調理可能なので、とりあえずゆっくり修理に移るとしましょう
しかし80%の出力の原因が何処かの故障ならば、使用を続けると発火の可能性も無きにしもあらず
なので早々に分解修理して、発火の可能性を潰しておこう

「分解と内部構造の解析」

「いよいよ分解してみる」

内部回路

「高電圧注意」の警告が有る

内部は高電圧

インバータ基板からマグネトロンまではヒーターケーブルのみの配線の様だ

ここまでの解析でインバータ基板かマグネトロンが出力低下の原因だろうから、マグネトロンから外してみる

開けてみる

内部は非常にシンプルだ、以前の電子レンジと比べても簡素なつくり

#「マグネトロン」

マグネトロン

マグネトロンは「発振管」なのでヒーター電圧とアノード電圧(数千ボルト)を与えると発振を始める
しかし、インバータ基板からはヒーターのケーブルが繋がっているだけである。

「インバータ基板」

インバータ基板を外して見る、非常にシンプルな作りだ
以前の電子レンジの様な高圧コンデンサはない、パワー素子はブリッジダイオードとFETのみだ

インバータ基板

回路を追ってみる、PFC(力率改善整流回路)で有る事は事前の調査で判明している
PFCコントローラ BD4250FS

通常のPFC回路が扱うパワー回路では
1)ワールドワイド入力(AC80V~AC260V)に対応する
2)非絶縁でPFC回路がDC400V近辺まで昇圧
3)DC400V→目的の電圧へ「絶縁回路」で昇圧する

「シンプルなパワー回路」

この回路は非常にシンプルである。
基本構成は、
 ダイオードブリッジ → フィルタ回路 → FETドライブ
 であり、ここまでは一般的なPFC回路と大きく変わらない。
 しかし、ここから先の構成が興味深い。

1)ヒーター電源
FET出力は高周波トランスへ入力され、その一部は絶縁されたヒーター巻線として取り出される。
このヒーター電源にはPFCインバータの高周波パルスがそのまま印加されるため、ヒーターは数十kHzで駆動されていることになる。
マグネトロンは真空管の一種であり、ヒーターは白熱電球と同様に熱源として機能する。そのため、直流・交流・パルスの違いはほとんど問題にならず、必要な電力が供給されれば正常に動作する。

2)高圧発生回路
高周波トランスの高圧巻線はセンタータップ構成となっており、倍電圧整流回路によって数千ボルトの高電圧を発生する。
この高電圧の+側は回路GNDへ接続され、ー側は前述の絶縁されたヒーター回路へ接続されている。
つまり、マグネトロンのアノード電圧は GND(0V)とヒーター(カソード)との間に印加される構成である。
したがって、従来の電子レンジのように「+数千ボルト」の高圧配線を筐体内に引き回す必要がなく、実際の高圧配線はヒーター側の負高圧回路のみとなる。

高電圧発生回路

画像に見えるフィルムコンデンサ(2個)は、センタータップ式倍電圧整流回路に使用されているコンデンサである。
また、その上にある黒いデバイス(2個)は高圧整流ダイオードであり、内部には複数のダイオードが直列接続されているため、耐圧は10kV級に達する。

「高圧平滑コンデンサが存在しない」

従来の電子レンジとの大きな違いは、高圧側に大容量の平滑コンデンサが存在しないことである。
構成としては、PFC出力 → 高周波トランス → 倍電圧整流回路 → フィルムコンデンサ → マグネトロンとなっている。
そのため、マグネトロンへ供給されるアノード電圧は完全な直流ではなく、100Hz(50Hz時)または120Hz(60Hz時)の全波整流波形を包絡線とする脈流成分を含む高圧DCとなる。

PFC 波形

これは、上で示した「全波整流波形をPFCでチョッピングした波形」が、そのまま高周波トランスを経由して高圧側へ伝達されているためである。
言い換えれば、電子レンジの定格消費電力は連続的に供給されるのではなく、100Hz/120Hzで変動する瞬時電力の平均値としてマグネトロンへ供給されていることになる。
したがって、このインバータ回路の構成は、AC100V → EMIフィルタ → PFC → 高周波インバータ → 高周波トランス → -HV出力およびヒーター電源という非常にシンプルなものとなっている。
大容量高圧コンデンサもなく、ヒーター専用電源も不要である。

マグネトロンという真空管の特性を巧みに利用し、必要最小限の部品で高効率な高圧電源を実現している点は非常に興味深い。

非常にシンプルな構成である

基板裏 PFC制御ICが見える

「内部計測(高圧回路)」

「電子レンジの症状」

電子レンジの症状は外部からの計測で
  600W → 476W(約80%)
 150W → 115W(約77%)
 実効消費電力 1079W(79%)
 全域で同じ比率で低下
 PFCは正常であり、従来型PFCで用いられる大容量DCバス平滑コンデンサは存在しない
この条件から導かれる答えは
 1)高圧フィルムコンデンサの容量抜け
 2)高圧ダイオードのリーク
 3)マグネトロンのエミッション低下
この3つだけ。

「基板を計測」

分解して確認したところ、本機の高圧回路には従来の高圧平滑コンデンサではなくフィルムコンデンサが使用されていた。

まずはコンデンサ実測 
8.2nF → 8.36nF
5.6nF → 5.46nF
正常範囲である

コンデンサ実測

コンデンサ実測

ダイオード2個の計測
パワエレ開発で使用しているAC200Vの絶縁トランス+スライダックで、10kΩの抵抗器を負荷としてダイオードのVFを計測
ダイオード UX-C2Bの順方向電圧(VF)は、最大 13.5V (IF = 19mA時)  計測結果は ほぼ正常

ダイオード計測

「マグネトロンの性能劣化」

「マグネトロン」

以上の結果からマグネトロンの性能劣化が決定的となった
マグネトロンの劣化では他の故障とは違い、突然の停止や発火の可能性も低いので、このまま80%出力で使用する
マグネトロン自体の修理は出来ないので代替品を探す

「代替品の探索(2M236-M39)」

マグネトロン 2M236-M39 をネットで探してみる
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検索ワードは「マグネトロン 2M236 未使用

今は「マグネトロン 2M236 に一致する商品はありません」と成るが出品されるまで根気よく待つ

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電子回路の設計・開発を長く手がけてきたサーキットマスターです。 マイコン制御、アナログ回路、パワエレが専門。数百件規模の開発経験があります。    実案件は公開できないため、この場では修理や趣味のオーディオを題材に、 ・回路やシステムの構造を読み解く面白さ ・電子回路設計の本質 ・制御理論や実装技術の考え方 などを共有できればと思っています。 修理も基板交換ではなく、故障デバイスを特定して部品レベルで追うのが基本スタイルです。
  • JO さんが 前の水曜日の0:35 に 編集 をしました。 (メッセージ: 初版)
  • JO さんが 前の木曜日の6:22 に 編集 をしました。
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