sanguisorbaのアイコン画像
sanguisorba 2020年05月01日作成 (2022年01月22日更新) © MIT
セットアップや使用方法 セットアップや使用方法 閲覧数 18706
sanguisorba 2020年05月01日作成 (2022年01月22日更新) © MIT セットアップや使用方法 セットアップや使用方法 閲覧数 18706

私的コンデンサの選定方法

音響用途以外の、基本的なコンデンサの用途での話です。
間違ってたらコメントください。

コンデンサとは何か

電気を蓄えるものです。充電池と似たようなものですが、原則、容量はとても低いです。

コンデンサの種類

大きく分けて固体コンデンサと液体コンデンサの二種類があります。

固体コンデンサ

  • セラミックコンデンサ (よく使う)
    積層と非積層がありますが、どちらも同じようなものです。極性はありません。
    周波数特性が良く、無線・信号・音響など幅広い分野で使われています。

  • タンタルコンデンサ (初心者は使ってはいけない)
    静電容量特性に精度が求められる時に用いるコンデンサです。温度による影響が少ないです。
    超寿命でもありますが、高価です。
    故障時は殆どの場合でショートモードです。後述の電源のローパスフィルタで使わる事もありますが、ショートになるのがネックなので電源のフィルタとしてタンタルコンデンサを使う事を私はオススメしません。タンタルコンデンサはこれ以外に選択肢がないというときに使うイメージです。

  • フィルムコンデンサ (高電圧や耐外的環境用途が多い。電子工作ではまず使わない。)
    素材によって使い道が違いますが、耐圧が高いので高電圧領域で使います。
    PPフィルムコンデンサやスチロールコンデンサは比較的低ESRで音響に用いられる事が多いです。PPフィルムコンデンサは電源系にも使われる事もあります。
    PETフィルムコンデンサは安価かつ電解コンデンサよりも耐久性があるため、電源系回路に用いられる事がありますが、昨今ではPPフィルムコンデンサが低価格化しているためPPフィルムコンデンサ以上に見かける事がありません。
    外的環境が厳しい条件(高温・高湿)では非常に高価ですがPTFEフィルムコンデンサやPPSフィルムコンデンサ(しかもどちらも比較的低ESR!)が使われる事があります。

  • 電気二重層コンデンサ (今回の話では除外)
    非常に容量が大きくこれはどちらかというと充電池に近いです。今回の話では除外します。

  • 高分子コンデンサ (よく使われるけど高い)
    殆どパナソニックが開発した(生産はSANYOだった)OS-CONの事を指します。かつてマザーボードは低ESRコンデンサを使うのが殆どでしたが、最近は殆どこれに置き換わっています。OS-CONには有機半導体によるものと伝導性高分子によるものがありますが、有機半導体によるものは現在生産されていません。

液体コンデンサ

  • アルミ電解コンデンサ (よく使う)
    液体を使っているという性質上、寿命が存在するためこれは消耗品です。想定年数は15年ぐらいでしょうか。破損すると電解液が噴き出て電解液がパターンを腐食する(特にひどい事例:第四級アンモニウム塩)ため、アルミ電解コンデンサの近くや真下に複雑なパターンを配置しない事をお勧めします。壊れた時に導線で何十本もジャンパー配線をする羽目になります。

原則極性があり、通常は直流回路に使います。両極性アルミ電解コンデンサなるものもありますが、交流回路のような電圧の変動の激しい回路ではすぐ壊れます。あくまでアルミ電解コンデンサは直流回路用途です。両極性アルミ電解コンデンサは逆直流電流が加わる可能性のある回路で使います。

電源回路のコンデンサ

ノイズの載った直流電流の平滑化のためにコンデンサを使います。

電源系の回路では例えノイズ対策と言えど原則、壊れた時に統計的にオープンになりやすいアルミ電解コンデンサを使います。壊れた時にショートになりやすい固体コンデンサはショート時火災の原因になる可能性があるため普通は使わないです。ESLとESRを下げたい場合は低ESR品を使うか並列にコンデンサを配置します。(後述)

85℃品と105℃品

単純に温度による耐久性の違いです。例えば製品として電源を作る場合、専用の箱に入れてファンを付けるほどの放熱が必要な場合では105℃を採用したほうが高価ですが無難です。個人の趣味でちょっとした電源の回路を作る場合は、熱源となりやすいMOSFETやレギュレータの近くに電解コンデンサを配置する際には105℃品を、特に熱源となる部分が存在しない場所では安価な85℃品を配置します。85℃品を全て105℃品にしたからといって耐久性が高くなるわけではないです。USBやACアダプタから電源からとって、それを平滑化するとか、Arduinoのアナログ出力を平滑化するとかの場合では85℃品で十分です。ただしACアダプタから電源を取るといえど、レギュレータやMOSFETの近くに置く場合は105℃品が無難です。コンセントから電源をとって変換する場合は発熱する部品が多くなるのでなるべく105℃品を用います。

いろいろな用途別アルミ電解コンデンサ

特性が若干違う。

電源用コンデンサ

比較的低インピーダンスで高寿命を謳うものが多いです。だいたい105℃品。製品の修理や、製品として電源回路を製作する場合ではこれを使っておけば間違いない。

オーディオ用コンデンサ

いくら高品質を謳えどコンデンサ自身による電流の損失の仕方が人間の耳に都合が良いというだけで、電源系で耐久性を示すわけではない。だいたい85℃品

低ESRコンデンサ

寄生R成分(内部抵抗, ESR)の低いコンデンサです。電源系に使う事が多いので大体105℃品です。

低ESR品電解コンデンサとローパスフィルタ

バイパスコンデンサで低ESR品を使うのには大きなメリットがあります。(後で詳しく述べます)
しかし直流が主なアルミ電解コンデンサで低ESR品を使うメリットは何か?
これはローパスフィルタというものを製作するときに影響されます。

そもそも電源回路を作るとき、方式として何を採用するかによって動作が大きく異なってきます。
トランス方式とスイッチング方式の2つがあげられます。
トランス方式はトランスを用いる事で交流の電圧を下げ、それをダイオードで整流、コンデンサで平滑化を行います。そのため、トランス電源はトランス1個、ダイオード2本、アルミ電解コンデンサ1本のみで完成します。(本当はダイオードは4本が良いが2本でも動く。ダイオードの使い方はブリッジダイオードで検索)半面、トランスが切れるという故障因子と、大きな電流が取れないという欠点があります。

スイッチング方式は交流電源の正負を直接スイッチングする事で大電流でも対応できますが、スイッチングの際にノイズが載る(スイッチングノイズ)という欠点があります。これを克服するための回路がローパスフィルタです。

ローパスフィルタは低い周波数がパスし、高い周波数をカットするという回路です。コイルとコンデンサを用いるLCフィルター、抵抗とコンデンサを用いるRCフィルターの2種類があります。どちらもESRが低ければ低いほどカットレベルが高くなり、しかし位相が遅れるという性質も持つため注意が要ります。

今回はあくまでコンデンサの選定方法であり、使い方ではないので詳しくは説明しません。
LCフィルタの詳しい特性については外部資料が参考になります。

パナソニック LCフィルタ (*要登録)
https://industrial.panasonic.com/jp/ds/library/lc_filter_TechnicalInfo?lc4_flow

ROHM - Tech Web: スイッチング電源に最適なコンデンサとインダクタとは
https://techweb.rohm.co.jp/tech-info/engineer/3027

低ESR品が手に入らない耐電圧や容量の場合、通常のコンデンサを複数用いてESRを下げる方法があります。これは後述します。

バイパスコンデンサ

ノイズを減衰します。いわゆるパスコンです。電源の平滑化と共にコンデンサの代表的な使用例です。アルミ電解コンデンサは高周波帯のノイズを殆どカットしないため通常はセラミックコンデンサを用います。どうしても必要な時だけタンタルコンデンサを使いますが、できれば使わないようにします。

バイパスコンデンサは静電容量が低ければ低いほど高周波帯のノイズをカットしてくれますが、カットレベルは弱くなります。

もう少し詳しく書くと、一般的にコンデンサにはインピーダンスというものがあります。平たく言えば交流を流した時の抵抗成分です。

バイパスコンデンサとして用いる場合、インピーダンスは低ければ低いほど効果的なコンデンサです。

原則、容量の小さいコンデンサほどインピーダンスは高くなりカットレベルは低くなりますが、共振点(もっともカットレベルの大きくなる周波数)が高くなるので高周波帯のカットに向いています。容量が大きければインピーダンスが低くなるのでカットレベルは大きくなりますが、高周波帯では共振点が低く、容量の小さいコンデンサのほうが高周波帯のカットレベルが大きくなることがあるので容量が大きければよいわけではありません。

耐電圧は高いほうが良いか?

一般的な電子工作では影響を受けないと思います。耐電圧が高くなるほど大きくなるのでスペースを取ります。

産業品では同じ容量だが耐電圧の異なるコンデンサ、そもそもメーカー毎にインピーダンスが異なっているため、精度の要求される高周波帯無線・CPUボード(20 MHz程度のArduinoなどでは殆ど影響がありませんが…)・フィルタ回路では想定しない動作を引き起こす原因になり得ます。

通常、インピーダンスはx軸を周波数、y軸をインピーダンス抵抗とするとV字のグラフを取ります。理想はインピーダンスが高周波帯に行くにつれて下がる事ですが、実際は寄生L成分によってある周波帯を境にインピーダンスが増加しV字をとってしまいます。インピーダンスは低ければ低いほどノイズ減衰性能は良いです。インピーダンスの高い低周波帯は通りますが、中周波帯のノイズではインピーダンスが低く減衰するため、ノイズ対策としてセラミックコンデンサ等をバイパスコンデンサとして用いる事があります。しかし高周波帯ではノイズ対策のために入れたコンデンサが全くノイズを減衰してくれないという現象が起きます。

このような事象を回避するために産業品では低ESL品コンデンサを用います。低ESL品コンデンサは寄生L成分(=ESL)の低いコンデンサです。

低ESLコンデンサは表面実装用でしか見たことがなく、使った事がありません。私には産業品・無線機・病んだ音響愛好家以外には無縁のものと思いますが、どうでしょう。

通常は先にも述べましたが安価な普通のコンデンサを複数用いる技を使います。

低ESL品コンデンサ と 低ESR品コンデンサ と 並列コンデンサ

先ほど、インピーダンスはV字を取るという話をしました。V字の内訳ですが、低周波帯からVの頂点(共振点)まではコンデンサの容量、共振点と共振点より高周波はESL成分によって決定します。共振点のときのインピーダンスの値はESR成分に依存します。

音響や無線の世界では同容量・同耐電圧のバイパスコンデンサを何個も並列に配置する事でL成分とR成分の低いバイパスコンデンサを構成するという技があります。この時、ESRとESLの値は両方とも、理想状態なら並列に並べたコンデンサが2個なら2分の1、3個なら3分の1に下がります。(ちなみに並列接続のコンデンサの容量は足し算なので2倍、3倍になります。)昔の電源にはアルミ電解コンデンサを3つ並列に並べてESR/ESLを下げて、抵抗と共にRCフィルタを組んだものが見受けられます。現在では低ESR品コンデンサがあるものの、低ESR品コンデンサで存在しない容量・耐電圧では、引き続きこのように並列に並べてESR/ESLを下げます。場所を取る事と、複数のコンデンサを用いるのでむしろコストがかかる場合があるという欠点がありますが、ESRとESLの両方のパラメータが下げられるという利点があります。

ただ実際は2分の1や3分の1といった値にきれいに下がりません。ESR/ESLはコンデンサだけでなく周りのパターンによるESR/ESLによる影響も存在します。そんなことをしなくても最初からESR・ESL成分が低いのが低ESR品コンデンサ と 低ESL品コンデンサです。低ESR品を謳うものは主に極性のある電解コンデンサ、低ESL品を謳うものは主に極性のない積層セラミックコンデンサです。低ESL品の積層セラミックコンデンサは入手性が良くないので通常は並列にコンデンサを並べるか、或いは高分子コンデンサを使うという選択肢になります。

低ESR品コンデンサは入手性が比較的よく、また通常のリード線タイプのものも出ています。PCのマザーボードの修理に昔は使いましたが、現在はOS-CONが殆どでもっぱら電源回路に使われます。

低ESR品コンデンサではESRが低いのでそれに影響してESLも通常より低い場合が多いです。[要出典] むしろ低ESR品コンデンサのESL成分よりもパターン配線のESL成分のほうが大きいなんていう事もあり得ます。低ESRコンデンサを検討するような回路を作る場合はフィルタ回路のパターンはなるべく長くしないなど基板パターンの引き方に気を付ける必要があります。

とは言うけれど…

なんだかんだで普通のセラミックコンデンサと85℃品のアルミ電解コンデンサぐらいしか使わない。電源作るときに105℃品ちょっと使うぐらい。ラズパイ用の回路設計には高いけどストレスフリーでいきたいから何も考えずにOS-CONを使っちゃう。

あと、タンタルコンデンサは本当におすすめしません。ショートして香ばしい匂いがしてもタンタルコンデンサのショートが原因だという事にたどり着くのはなかなか大変なので。

1
7
sanguisorbaのアイコン画像
マイコンを使わない低レベルな電子工作とかPCBパターン製作など
ログインしてコメントを投稿する