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sanguisorba 2021年05月08日作成 (2022年01月22日更新) © MIT
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RC, RLフィルタをラプラス変換で解く

これの続き
Wolfram Engine + Jupyter notebookで回路解析 (Windows) | elchika
https://elchika.com/article/ef587a27-9e1e-4c10-820d-070477c3cb1f/

前書き

ラプラス変換はコンピュータで計算できるため非常に便利ではありますが、割と一長一短なところがあります。

  • ラプラス変換の長所
    コンピュータに解かせる事ができる。
    フェーザ法では適応できない交流以外の入力に対して対応できる。

  • ラプラス変換の短所
    コンデンサに電荷が蓄えられている状態を解析するのが困難。

コンデンサに電荷が蓄えられている状態を解析するのは微積のほうが楽です。
これは、コンデンサが含まれる回路では電荷に関する微分方程式を解くため、電荷の初期条件を適用するのが容易(というか必須)だからです。

ゆえに、初期条件でコンデンサの電荷が0となっている状態の回路でないと解析は難しいです。

今回はラプラス変換を用いると瞬で解ける例としてフィルタ回路を紹介します。いずれもコンデンサの電荷は初期状態で0とします。

復習ですが、ラプラス変換によるs関数を用いたインピーダンスは次のようになります。

  • 抵抗: RR
  • コイル: sLsL
  • コンデンサ: 1sC\frac{1}{sC}

ゲインのプロット方法

Plot [NMaxValue[(50000*2*π*x*Sin[2*π*x*y]-(2*π*x)^2*Cos[2*π*x*y])/(5000000000+2*(2*π*x)^2),y],{x,1,50000}, PlotRange ->{{0,50000},{0,0.5}}]

前回のグラフ

ゲインは振幅比に対して

G=20log10AG = 20 log_{10} A

ですから、まずゲインの式を適用します。ゲインは0以下となるのでPlotRangeを{-30,-0}とすると次のようにプロットできます。

Plot[20*Log10[NMaxValue[(50000*2*π*x*Sin[2*π*x*y] - (2*π*x)^2*Cos[2*π*x*y])/(5000000000 + 2*(2*π*x)^2), y]], {x, 1,50000}, PlotRange -> {{0, 50000}, {-30, 0}}]

キャプションを入力できます

軸が正方向にしか出ていないのが気持ち悪いのでFrameを適用します。オプションに以下の記述を追加すると次のように出力されます。

Frame -> True

キャプションを入力できます

Wolframにはy軸を対数軸とするLogPlotというものが用意されていますが、x軸のみを対数軸とするものは用意されていません。
x軸のみを対数軸とするには、オプションにScalingFunctionsを追加すると解決できます。

ScalingFunctions -> {"Log10", None}

キャプションを入力できます

あとはPlotRange を調整して、更に線の色を赤色に変更すると最終的に以下のように出力できます。

Plot[20*Log10[NMaxValue[(50000*2*π*x*Sin[2*π*x*y] - (2*π*x)^2*Cos[2*π*x*y])/(5000000000 + 2*(2*π*x)^2), y]], {x, 1,100000}, PlotRange -> {{1000, 100000}, {-30, 0}}, Frame -> True,ScalingFunctions -> {"Log10", None}, PlotStyle -> Red]

キャプションを入力できます

"RR"フィルタ

今回はRC, CR, RLフィルタを解析していきますが、その前に"RR"である状態を考えます。

キャプションを入力できます

この時、出力される電圧VOUTV_{OUT}を考えてみると、分圧抵抗から

VOUT=R2R1+R2VINV_{OUT}=\frac{R_2}{R_1+R_2}V_{IN}

となります。以降のフィルタ回路は全部分圧抵抗と同じ考え方となります。

ローパスRCフィルタ

キャプションを入力できます

L[VOUT]=1sCR+1sCL[VIN]=1sCR+1L[VIN]\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{\frac{1}{sC}}{R+\frac{1}{sC}}\mathcal{L}[V_{IN}]=\frac{1}{sCR+1}\mathcal{L}[V_{IN}]

入力電圧VIN=cos(ωt)V_{IN}= cos(\omega t)とすると、

L[VOUT]=L[cos(ωt)]=ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\mathcal{L}[cos (\omega t)]= \frac{s}{s^2+\omega ^2}

よって、

L[VOUT]=1sCR+1ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{1}{sCR+1}\frac{s}{s^2+\omega ^2}

逆ラプラス変換を行い、

VOUT=cos(ωt)+ωCRsin(ωt)etCRω2C2R2+1V_{OUT}=\frac{cos(\omega t)+\omega CR sin(\omega t)-e^{-\frac{t}{CR}}}{\omega^2C^2R^2+1}

定常解は

VOUT=cos(ωt)+ωCRsin(ωt)ω2C2R2+1V_{OUT}=\frac{cos(\omega t)+\omega CR sin(\omega t)}{\omega^2C^2R^2+1}

C=100nF,R=1kΩC=100nF, R=1k\Omegaとして周波数特性をプロットすると次のようにローパスである事がわかる。
キャプションを入力できます

カットオフ周波数は

f0=12πCR=12π×107×1000=1592Hzf_{0}=\frac{1}{2\pi CR}=\frac{1}{2\pi\times 10^{-7}\times 1000}=1592 Hz

ちなみにこの回路に直流1Vを入力した場合、すなわち、

L[VOUT]=1sCR+11s\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{1}{sCR+1}\frac{1}{s}

これに逆ラプラス変換をすると、

VOUT=1etCRV_{OUT}=1-e^{-\frac{t}{CR}}

と求まり、わざわざ微積を用いなくてもコンデンサの充電時間の目安を簡単に計算できる。

ハイパスCRフィルタ

キャプションを入力できます

L[VOUT]=RR+1sCL[VIN]=sCRsCR+1L[VIN]\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{R}{R+\frac{1}{sC}}\mathcal{L}[V_{IN}]=\frac{sCR}{sCR+1}\mathcal{L}[V_{IN}]

入力電圧VIN=cos(ωt)V_{IN}= cos(\omega t)とすると、

L[VOUT]=L[cos(ωt)]=ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\mathcal{L}[cos (\omega t)]= \frac{s}{s^2+\omega ^2}

よって、

L[VOUT]=sCRsCR+1ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{sCR}{sCR+1}\frac{s}{s^2+\omega ^2}

逆ラプラス変換を行い、

VOUT=ω2C2R2cos(ωt)ωCRsin(ωt)+etCRω2C2R2+1V_{OUT}=\frac{\omega ^2 C^2R^2 cos(\omega t) - \omega CR sin(\omega t)+e^{-\frac{t}{CR}}}{\omega^2C^2R^2+1}

定常解は

VOUT=ω2C2R2cos(ωt)ωCRsin(ωt)ω2C2R2+1V_{OUT}=\frac{\omega ^2 C^2R^2 cos(\omega t) - \omega CR sin(\omega t)}{\omega^2C^2R^2+1}

C=100nF,R=1kΩC=100nF, R=1k\Omegaとして周波数特性をプロットすると次のようにハイパスである事がわかる。
キャプションを入力できます

カットオフ周波数は

f0=12πCR=12π×107×1000=1592Hzf_{0}=\frac{1}{2\pi CR}=\frac{1}{2\pi\times 10^{-7}\times 1000}=1592 Hz

ちなみに先ほどのローパスRCフィルタと周波数特性をあわせるとこんなかんじになる。
キャプションを入力できます

ハイパスRLフィルタ

キャプションを入力できます

L[VOUT]=sLR+sLL[VIN]\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{sL}{R+sL}\mathcal{L}[V_{IN}]

入力電圧VIN=cos(ωt)V_{IN}= cos(\omega t)とすると、

L[VOUT]=L[cos(ωt)]=ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\mathcal{L}[cos (\omega t)]= \frac{s}{s^2+\omega ^2}

よって、

L[VOUT]=sLR+sLss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{sL}{R+sL}\frac{s}{s^2+\omega ^2}

逆ラプラス変換を行い、

VOUT=L2ω2cos(ωt)RLωsin(ωt)+R2eRtLR2+L2ω2V_{OUT}=\frac{L^2 \omega ^2 cos (\omega t)-RL \omega sin (\omega t) + R^2e^{-\frac{Rt}{L}} }{R^2+L^2 \omega ^2}

定常解は

VOUT=L2ω2cos(ωt)RLωsin(ωt)R2+L2ω2V_{OUT}=\frac{L^2 \omega ^2 cos (\omega t)-RL \omega sin (\omega t)}{R^2+L^2 \omega ^2}

L=100mH,R=1kΩL=100mH, R=1k\Omegaとして周波数特性をプロットすると次のようにハイパスである事がわかる。
キャプションを入力できます

カットオフ周波数は

f0=R2πL=10002π×100×103=1592Hzf_{0}=\frac{R}{2\pi L}=\frac{1000}{2\pi \times 100 \times 10^{-3}}=1592 Hz

L=100mH,R=1kΩL=100mH, R=1k\OmegaのハイパスRLフィルタと、C=100nF,R=1kΩC=100nF, R=1k\OmegaのハイパスCRフィルタは殆ど同じ周波数特性を持つ。(実際にプロットして確認してみてください)

ローパスLRも同じような感じで解くので省略。

ちなみにローパスLRフィルタ回路に直流1Vを入力した場合、すなわち、

L[VOUT]=RR+sL1s\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{R}{R+sL}\frac{1}{s}

これに逆ラプラス変換をすると、

VOUT=1eRLtV_{OUT}=1-e^{-\frac{R}{L}t}

と求まり、抵抗にかかる電圧は指数関数的に増加する事がわかる。
例

おまけ: LCで作るとどうなるか

つまりこういう回路
キャプションを入力できます

L[VOUT]=1sCsL+1sCL[VIN]=1s2LC+1L[VIN]\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{\frac{1}{sC}}{sL+\frac{1}{sC}}\mathcal{L}[V_{IN}]=\frac{1}{s^2LC+1}\mathcal{L}[V_{IN}]

入力電圧VIN=cos(ωt)V_{IN}= cos(\omega t)とすると、

L[VOUT]=L[cos(ωt)]=ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\mathcal{L}[cos (\omega t)]= \frac{s}{s^2+\omega ^2}

よって、

L[VOUT]=1s2LC+1ss2+ω2\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{1}{s^2LC+1}\frac{s}{s^2+\omega ^2}

逆ラプラス変換を行い、

VOUT=cos(tLC)cos(ωt)LCω21V_{OUT}=\frac{cos(\frac{t}{\sqrt {LC}})-cos (\omega t)}{LC \omega ^2-1}

これはそのまま定常解なのでL=100mH,C=100nFL=100mH, C=100nFとして周波数特性をプロットすると次のように出力される。

キャプションを入力できます

ただしこの回路は自己発振するためきれいな正弦波を出力しません。回路シミュレータで実際に制作してみてください。
共振周波数は

f0=12πLC=12π100×103×100×109=1592Hzf_{0}=\frac{1}{2\pi \sqrt {LC}}=\frac{1}{2\pi \sqrt {100 \times 10^{-3} \times 100 \times 10^{-9}}}=1592 Hz

ちなみにこの回路に直流1Vを入力した場合、すなわち、

L[VOUT]=1s2LC+11s\mathcal{L}[V_{OUT}]=\frac{1}{s^2LC+1}\frac{1}{s}

これに逆ラプラス変換をすると

VOUT=1cos(tLC)V_{OUT}=1-cos (\frac{t}{\sqrt {LC}})

周波数はω=1LC\omega = \frac{1}{\sqrt {LC}} であるから、例えば50Hzを発振させたい場合はω=2π×50=1LC\omega = 2 \pi \times 50= \frac{1}{\sqrt {LC}} となるようにうまくコンデンサとコイルを選ぶとする。
L=100mH,C=100μFL=100mH, C=100\mu Fを素子値としてプロットすると、0.2秒の間にほぼ10回振動しているのでほぼ50Hzである事がわかる。
キャプションを入力できます

コイルとコンデンサを組み合わせると発振する性質をうまく応用すると、直流から交流を生成できる。
例えば、コイル・コンデンサ・トランジスタを組み合わせたコルピッツ型発振回路というものがあります。

よかったら勉強してみてね。

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マイコンを使わない低レベルな電子工作とかPCBパターン製作など
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